結晶軸・光軸・光学的弾性軸について  [戻る


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結晶軸


鉱物はX線や電子線による回折で原子配列が明らかにされ,その原子配列の対称性から結晶軸(下図の
a軸b軸c軸など)が定められている。原子配列の対称性の高いものから順に,等軸晶系・六方晶系・正方晶系・斜方晶系(直方晶系)・単斜晶系・三斜晶系という結晶系がある。光学的に六方晶系・正方晶系は1軸性結晶に属し,斜方晶系・単斜晶系・三斜晶系は2軸性結晶に属する。なお,等軸晶系の鉱物は光学的には等方体なので光学的方位は規定されない。



等軸晶系(光学的等方体)
 

六方晶系(1軸性結晶)

 
正方晶系(1軸性結晶)


斜方(直方)晶系(2軸性結晶)

単斜晶系(2軸性結晶)


三斜晶系(2軸性結晶)


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光軸:鉱物の複屈折量が0に近い光学的方位を光軸という(光軸方向から観察すると干渉色は暗黒に近い。多色性も見られない)。

1軸性結晶(六方晶系・正方晶系)について

1方向だけに光軸があるので1軸性結晶といい,それはc軸に一致(
光軸は1本だけなのでアイソジャイアーは縦横の直線)。1軸性結晶を通過する光には方位により屈折率が変わらない通常光(ω)と方位により屈折率が変わる異常光(ε)があり,両者の屈折率が同じ方位がc軸(=光軸)である。
クロスニコルで1軸性結晶が消光するのは,観察方向から見て,c軸(=光軸),および,c軸と直交するa軸方向(c軸に垂直な平面に沿う方向)が,下方ニコルあるいは上方ニコルの偏光の振動方向のいずれかに一致した場合で,c軸やa軸方向に直消光する(ただし,このc軸(=光軸)は薄片の面に平行である場合は少なく,多くは観察方向に沿って前・後に傾いている。)。

1軸性結晶のω(通常光)とε(異常光)の屈折率の大きさの関係
※1軸性正号結晶のc軸方向は鋭敏色検板のZ´方向で,c軸に伸びた結晶では伸長は正である(6角板状などのa軸に伸びた結晶では伸長は負)。
※1軸性負号結晶のc軸方向は鋭敏色検板のX´方向で,c軸に伸びた結晶では伸長は負である(6角板状などのa軸に伸びた結晶では伸長は正)。



六方晶系の結晶軸と光軸の関係

結晶軸はc軸と,それに直交する3本のa軸(a1軸・a2軸・a3軸:これらは互いに60°に交わる)

光学的にはc軸=光軸なのでc軸に対し直消光し,c軸に直交するa軸方向(a1軸・a2軸・a3軸からなる平面方向)に対しても直消光する。
※へき開線に対しては,薄片の粒子の結晶方位によっては直消光以外に斜消光する場合も多い。
正方晶系の結晶軸と光軸の関係

結晶軸は互いに直交する1本のc軸と,2本のa軸

光学的にはc軸=光軸なのでc軸に対し直消光し,c軸に直交するa軸方向(2本のa軸からなる平面方向)に対しても直消光する。
※へき開線に対しては,薄片の粒子の結晶方位によっては直消光以外に斜消光する場合も多い。
六方晶系と正方晶系は光学的方位は同じ



2軸性結晶(斜方晶系・単斜晶系・三斜晶系)について

斜方晶系・単斜晶系・三斜晶系では2方向に光軸があるので2軸性結晶という(
光軸が2本あるのでアイソジャイアーは湾曲する)。
そして,2軸性結晶では,
2つの光軸のなす角(光軸角:2V)を2等分する方向にZとX,および,そのZとXの両方に直角に交わるYという光学的弾性軸というものが規定されている。それらの3本の光学的弾性軸Z・X・Yは互いに直交する(2本の光軸と光学的弾性軸Z・Xは同一平面内にあり,それを光軸面という)。光軸角は鉱物種や固溶体組成などで変化し,90°以下の角度で表現される(その補角は90°を超えるが,それは光軸角とは呼ばない)。

主屈折率γ・α・βと光学的弾性軸の関係は以下の通り
・主屈折率γ(屈折率が最大)の光の振動方向は,光学的弾性軸Zに平行
・主屈折率α(屈折率が最小)の光の振動方向は,光学的弾性軸Xに平行
・主屈折率βの光の振動方向は光学的弾性軸Yに平行


光軸角(2V:90°より小さい)を2等分する光学的弾性軸がZの場合は2軸性正号結晶,Xの場合は2軸性負号結晶という。
2軸性正号結晶の光軸角は2V,2軸性負号結晶の光軸角は2Vで表現される(2Vz=180°−2Vx)。

なお,光軸角がちょうど90°の場合は光学的に正号・負号の区別はない。


クロスニコルで結晶が消光するのは,観察方向から見て,光学的弾性軸Z・X・Yのいずれかの方位が,下方ニコルあるいは上方ニコルの偏光の振動方向に一致した場合である。ただしこの光学的弾性軸は薄片の面に平行である場合は少なく,多くは観察方向に沿って前・後に傾いている。したがって,その消光したときの方位はZ´,X´とされる(光学的弾性軸Z・X・Yの真の方向はユニバーサルステージを用いないと分からない)。通常の偏光顕微鏡観察では,鋭敏色検板で薄片の薄い部分(1次の白以下の干渉色を示す部分)が相加(青に見える)になった時,Z´とX´の方位が分かるだけであり,Z´はおおむねZ〜Y,X´はおおむねX〜Yに相当する

※下図はひずんだ球体の1/8区分だけを表示





※原点から遠いほど,屈折率が高いことを示す。

2軸性結晶は,2本の光軸のなす角(光軸角:2V)=90°を境に,正号⇔負号となる。
※2軸性正号結晶はγ−βの複屈折量がβ−αの複屈折量より大きい傾向がある。そして,2Vzが小さくなり0°になると1軸性正号結晶と同じになる。
※逆に2軸性負号結晶はβ−αの複屈折量γ−βの複屈折量より大きい傾向がある。そして,2Vxが小さくなり0°になると1軸性負号結晶と同じになる。



2軸性結晶で主屈折率γ・α・βと光軸角(2Vz)の半分の角度(Vz)には下式の関係がある。浸液法などで未知鉱物の主屈折率γ・α・βが分かれば,これで光軸角(2Vz)が算出できる(2Vzの角度が90°を超えた場合は,2Vx=180°−2Vzで負号結晶の光軸角(2Vx)となる)。





斜方晶系の結晶軸と光学的弾性軸の関係
結晶軸a軸・b軸・c軸は互いに直交。

光学的弾性軸は結晶軸に全て一致するので(a軸=XまたはYまたはZ,b軸=XまたはYまたはZ,c軸=XまたはYまたはZ),結晶軸(結晶の伸び方向)に対しすべて直消光する。
※へき開線に対しては,薄片の粒子の結晶方位によっては直消光以外に斜消光する場合も多い。
単斜晶系の結晶軸と光学的弾性軸の関係
結晶軸a軸とc軸は斜交(その角度はβ)。
b軸とa軸,b軸とc軸は直交。

結晶軸のb軸と光学的弾性軸(X・Y・Zのうちのいずれか)が一致し,b軸に対しては直消光。それ以外のa軸・c軸に対しては斜消光。
ただし,フィロケイ酸塩はa軸も光学的弾性軸とほぼ一致する場合が多く,b軸〜a軸方向である結晶の伸び方向やへき開線に直消光することが多い(雲母類・緑泥石類・パイロフィライト・スチルプノメレンなど)。
三斜晶系の結晶軸と光学的弾性軸の関係
結晶軸a軸・b軸・c軸が互いに斜交。

結晶軸と光学的弾性軸はいずれも一致しない場合が多く,結晶の伸び方向やへき開線などに関し斜消光する場合が多い。
ただし,ケイ灰石(b軸方向に伸び,b軸≒Y)やペクトライト(b軸方向に伸び,b軸≒Z)のように,伸び方向の結晶軸と光学的弾性軸がほぼ一致し,結晶の伸びに対して直消光に近い種類もいくらかある。